羽生結弦選手を特集した「アナザー・ストーリーズ」。今更の感想で、胸がいっぱいなのですが、ディック・バトンさんに関して少しだけ感想を。
ディック・バトンさん、ただの二連覇したレジェントじゃなくて本当にレジェンドofレジェンドでした!
2アクセルの元祖であり、3回転ループをはじめて跳んだ人。それだけじゃなくて、バトンさんの言う通り切れ味のいいジャンプにぶれないスピン。キャメルスピンはもともとバトン・スピンと呼ばれていたとか。バトン・スピンのままでもよかったのに、なぜキャメル?
そのスピンをした理由がまた素晴らしい。フィギュアスケートをより魅力的に見せるために、なぜならフィギュアスケートはスポーツである以前に魅せるためのものだから。お客さんに感動してもらえるものでなければ、と。
なぜ私がキム・ヨナより真央ちゃんの方が好きだったか分かった気がした
「点数なんておまけだよ。」「演技がちゃんと劇場になっているかどうかだよ」「4回転、4回転、って雑巾を絞るようなジャンプばかりしおって」「難しい技だろうがそれがちゃんと独自の演技になってなきゃ」「ユヅルはどこかで見たような演技はしない」
いろいろぶった切ってくれていましたが、私がちょっとモヤモヤしたことを吹っ飛ばしてくれたような気がして、それもシンプルに納得したのです。
最近の選手は(と、にわかファンでいうのもなんですが)、「すごいなあ」と思うことはあっても、なんども繰り返し見たくなるとか、感動するとか、そう思える選手が少ないかもしれないな、と思ってました。特にロシアのジュニアの女子たちはすっごく上手だし高難度だし本当にすごいと思うのだけれど、「すごい」と思うのと「感動する」というのはなかなか共存しない…。「すごい」を通り越すと「感動」になったりもすることはあるものの、なぜかない…。
でも全日本の坂本選手でボロボロと泣いてしまったし、宮原さんのショートでもウルウル…。
なんでだかわかりませんが、彼女たちの演技には全日本という舞台で技術以上のなにかがあって私の心に響いたのかもしれない…。
「点数なんておまけだよ」
なんて言ってくれたら「そうだよねー」と。もしかしたら最近いろいろ見すぎていて、知らないうちに点数やらジャッジやらGOEやら難易度やらルールやらに心がとらわれすぎていたのかもしれないな、って。
「難しい技だろうがそれがちゃんと独自の演技になってなきゃ」
それだ!たぶんモヤモヤはこれ。難易度の高い技を多く選手ほど、個性が見えないような気がして…。それでも、羽生君もハビエルも個性があるし、昌磨くんもある。ジェイソンくんは4回転がなくても表現だけで惹きつけられる個性がある。
でもネイサンやボーヤンはまだちょっと薄いかな、と思ってます。ネイサンは自分に合った路線を見つけた感じがあるな、とは思うけれど。若い選手ほど薄味がちかなと思うけど、たぶん経験とかそういうものだとも思う。ジュニアの子たちはあまり印象に残りにくい(とくに海外選手は…)。
ザギトワ選手は可愛いし性格も大好きなんですが、演技を見て「すごい」と思っても何度も繰り返し見たい、とか彼女独自の個性があるな、というところはまだ感じたことがないです。若いというのもあるけれど、トゥクタミシェワ選手の演技の方が好き。たぶん彼女の突き抜けた個性が好きなんだと思う。
バトンさんが印象に残った選手のうちの一人に真央ちゃんをあげていました。
私は、当時はエッジエラーだの回転不足だのというのは全然知らずに見ていたし、キム・ヨナが高難易度のプログラムを跳んでるとか全然知らずに見ていました。ジャンプはアクセル以外はすべて同じに見えていたので難易度の差とかわからないですから。
私は真央ちゃんの柔らかい表現がとても好きでした。当時ライバルのキム・ヨナさんはあんまり好きじゃないなーと思ったことはありましたが、「憎い」とかましてや「八百長!」なんて思ったことはないですよ!(そもそも八百長ってわざと負ける取引って意味だった気が)
真央ちゃんの演技を見ていたら「回転不足だのエッジだのそんなことは関係ないんだ!」って思います。バトンさんの言葉を聞いたら、ルールとか点数とかそんなことどうでもよくて彼女の演技がただきれいだな、美しいな、感動するな、ってピュアな気持ちで見てたことを思い出しました。
みどりさんのジャンプに感動するわけが分かった気がした
バトンさんが褒めていた選手に伊藤みどりさんも。「あんなに空高く跳ぶ…」ととにかく手のジェスチャーがすごかった!
ジャンパータイプの選手もいれば、表現に力を入れている選手もいて、私はどちらかというと表現タイプの方が好みだな、と思っているのですが、それでも、みどりさんは別格の存在なんです。むしろ、ジャンパーだから好きなんじゃなくて、見ていて気持ちがいいから好きなんです。
ロシアの子たちが4回転を跳ぶようになっても、やっぱり私はみどりさんのトリプルアクセルやルッツなどの3回転ジャンプの方が「ヒャー!」って思っちゃうんですよ。
今の時代男子でも難易度高い選手が増えてきましたが、いくら4回転を跳んでも心が震えるジャンプを跳ぶのは、私にとっては羽生君だけなんです。
「彼(羽生)のジャンプの一番見るべきポイントはスピードだ。ジャンプに入る時と出る時のスピードが変わらない。そんな選手はまずいない。」
これを聞いて、すごいジャンプ(4回転とか)を見てもすごいと思うのとそうでもないのって、このスピードが鍵だったのか!と気が付きました。
ジャンプを見て、スカッとしたり気持ちいい感じになるのは、羽生君もですけど、伊藤みどりさんのジャンプもです。そしてみどりさんもジャンプの前後でスピード落とさない。トリプルアクセル跳ぶのに減速してないですもん。
それだけじゃなくて、盛り上がる音楽にジャーン♪って決まったりするとそれだけでワクワクします。
不穏な感じの音楽ではじまり、最初のルッツは無音になった瞬間に「ブオオオン!」と。風切り音まで演出の一部になってる!そして次のアクセルは静かに音楽が盛り上がっていくのがこれからアクセル跳ぶよ~のワクワク感にぴったりで、「ジャーン♪」でピタッと決まったトリプルアクセルに心が震えます。
みどりさんプロになってからの冒頭のトリプルアクセル。音ハメがとにかくすごく気持ちいい(でもこの使用されている音楽がわからない)。この音楽ってとても女性的なのに、女子がほとんど跳べないトリプルアクセルで、パワフルでありながら女性らしい表現でぴたっと決めるのがほんとうに素晴らしいと感じました。まさに唯一無二の表現です!
羽生君の2014年グランプリファイナル。冒頭のサルコウもあざやかなのですが、2番目に跳んだトゥループのジャーン♪がとにかく気持ちいい!それからフリップとスピンと流れが途切れないからついつい全部演技を見てしまうのが羽生君の演技だな、と思います。
たぶん、4回転ルッツとかすごく綺麗で高さも幅もあって完璧って思う選手がいても、どこか足りない気持ちになるのは、おそらく「スピード」と「つなぎ」なんだな、と思いました。
4回転を多く跳ぶネイサン君は、跳ぶ瞬間にぐっと慎重に行ってる感じでそこで少し冷めてしまうのです…(ごめんなさい)。きれいに決めてもスカッとまではしないのはそこなのかも…。
素晴らしいシアター
Hanyu - Beautifully choreographed with the music. Terrific theatre!
— Dick Button (@PushDicksButton) February 17, 2018
「見て楽しい」「気持ちがいい」「かっこいい」「泣いちゃう」
そんな感情を素直に感じながら、もっと自分のインスピレーションに頼ってフィギュアスケートを楽しめばいいんだな、ってバトンさんから単純なことに気が付かされたな、と思いました。
文章の中で、もし気を悪くされた方がいたらゴメンナサイ。感動しない…と書いた選手たちについて、「今」はそうかもしれませんが、将来は感動することもあるかもしれません。選手たちはみな好きで応援しています。